大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)21395号 判決

原告

A

右訴訟代理人弁護士

大口昭彦

長谷川直彦

丸山敦朗

被告

右代表者法務大臣

臼井日出男

右指定代理人

熊谷明彦

外四名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、三七五七万五五〇八円及び平成六年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が東京拘置所に在監中、刑務官らから数度にわたり違法行為を加えられたと主張して、被告に対し、逸失利益、慰謝料、弁護士費用として合計三七五七万五五〇八円及びこれに対する違法行為の後である平成六年六月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実

1(一)  原告は、エジプト・アラブ共和国の国籍を有する者であり、平成五年六月当時、在日期間三年で、日本人女性と結婚しており、アラビア語、英語、フランス語、北京語の日常会話ができると称している外、日本語による日常会話ができた。

(二)  被告は、東京拘置所において、刑務官を配置し、拘置業務に当たらせていた。

2  原告は、平成五年六月八日、恐喝被告事件により公訴を提起され、同月二二日、警察庁蔵前警察署から東京拘置所に移監され、以後同所において勾留されていた。

3  原告は、平成七年四月一四日、東京地方裁判所において、懲役一年一〇月(未決勾留日数六〇〇日を右刑に算入する。)に処する旨の実刑判決の言渡しを受けて懲役刑に付されたが、同年五月二日、検察官の指揮により、東京拘置所を出所した。

三  争点

1  争点1(刑務官らによる原告に対する違法行為の有無)

(一) 原告の主張

(1) 違法行為Ⅰ

(ア) 原告は、平成五年一〇月二六日午後六時頃、当時収容されていた居房の窓に向かって立ち上がったところ、担当刑務官がいきなり「隣房の被収容者と話をするな。」と言って怒鳴り込んできた。原告は、「だれとも話していない。」旨説明したが、右刑務官は聞き入れず、警備隊員と思われるほかの刑務官約一〇名を応援として呼び寄せた。その際、刑務官らは「このヤロー」「こじきヤロー」等と口々に罵声を浴びせた。

(イ) ところで、被告人は、刑事訴訟法六〇条に基づいて、適正な裁判を受けるために勾留されているにすぎないところ、右目的のために勾留中の原告に対し、拘禁目的の達成とは無関係の罵声を浴びせ、同人の名誉感情を侵害することは許されず、刑務官らの右行為は違法である。

(2) 違法行為Ⅱ

(ア) 刑務官らは、違法行為Ⅰに引き続き、原告に対し、「ペナルティー」と告げ、原告を「スペシャルルーム」と呼称されている監房(以下「スペシャルルームⅠ」という。)に連行した。その結果、原告は、疥癬に罹患し、二箇月間の加療を余儀なくされた。

(イ) ところで、監獄法六〇条は、監房内の秩序違反行為に対する懲罰としては、叱責以下一二種類の懲罰を規定しているにすぎない。また、監獄法は監房については一五条以下で規定するのみであり、矯正局長通達(昭和四二年一二月二一日矯正甲一二〇三、以下「保護房使用通達」という。)により、特別施設として保護房を設置することが認められているだけである。しかるに、「スペシャルルーム」は、設備及び構造において、保護房とは明らかに異なるものであるから、被収容者を「スペシャルルーム」に転房させるという「ペナルティー」制度は、法治主義に反し違法である。

すなわち、「スペシャルルームⅠ」は、以前の被収容者の汚物の痕跡が在するほど非衛生的で、収容者が常時テレビカメラによる監視を受けるものである。しかも、保護房の場合と異なり、収容者を転房させるに当たって拘置所長の許可は必要とされず、帳簿に記載することも義務付けられていないため、不当な収容に対する抑制制度が全くとられていない。

したがって、「スペシャルルームⅠ」を設置し、収容者をこれらの部屋に懲罰として転房させることは、違法である。

(ウ) 仮に、拘置所内に「スペシャルルーム」を設置することが許容されるとしても、保護房使用通達によれば、保護房の使用が許容されるのは、被収容者に逃走のおそれが認められる等拘禁目的を達成するために必要不可欠な場合に限られているところ、原告にはそのまま居房に収容しておくと拘禁目的を達成し得なくなるという事情が全く存在しなかったのであるから、原告を「スペシャルルームⅠ」に収容したことは違法である。

(3) 違法行為Ⅲ

(ア) 原告は、平成六年三月一七日午前九時三〇分頃、自己の刑事訴訟記録を検討していたところ、担当刑務官が、訴訟記録のとじひもに関して因縁をつけてどなり込んできた上、罵声を浴びせた。そこで、原告は、右刑務官に対し、当該ひもを所持するに至った経緯について説明したが、右刑務官は、再度罵声を浴びせた上、電話で応援を依頼したため、一五名以上の警備隊員と思われる刑務官が駆けつけた。そして、右刑務官らが、原告に対し、口汚くののしりながら房内に侵入してきたため、原告は、身の危険を感じ、房内の小机を胸の高さまで持ち上げて防衛しようとしたところ、刑務官らはいきなり原告を突き倒した上、警備靴で原告の顔面を踏みつけたり、体を足げりにしたりした。

その後、右刑務官らは、原告を全裸にした上、警備靴の底で下腹部を強くけりつけ、尻に棒状の物を押し込んだり、原告の陰毛をわしづかみにして数回引き抜いた。

(イ) 法は、刑務官が有形力を行使しうる場合について何ら規定していないが、基本的人権の擁護を基調とする現行憲法下においては、刑務官は、拘禁目的を達成するために必要最小限の有形力を行使しうるにすぎない。

しかるに、原告は、刑務官に対し、とじひもの説明をしただけであるから、有形力を行使しなければ拘禁目的を達し得ない場合には該当せず、刑務官らが原告に対し暴力を加えたことは違法である。さらに、刑務官らが、勾留中の被告人である原告に対し、拘禁目的と無関係な罵声を浴びせたことは違法である。

(4) 違法行為Ⅳ

(ア) 刑務官らは、違法行為Ⅲの後、原告を前記(2)(ア)とは別のスペシャルルームと呼称されている監房(以下「スペシャルルームⅡ」という。)に連行した。

原告は、その二日後に、「スペシャルルームⅢ」に、さらに、数日後に「スペシャルルームⅣ」、四月一日頃「スペシャルルームⅤ」に転房させられた。右「スペシャルルームⅡないしⅤ」は、程度に多少の差はあるものの、「スペシャルルームⅠ」と同様に非衛生的で、常時テレビカメラにより収容者を監視できるようになっていた。

(イ) 原告が「ペナルティー」を受けたきっかけは、訴訟記録のとじひもに関する刑務官とのやりとりであるが、そのそも当該とじひもは、当該刑務官に依頼して購入したものであるから、原告が何ら秩序違反行為をしていないことは明らかである。したがって、原告を「ペナルティー」に処したことは違法である。

また、拘置所内に「スペシャルルーム」を設置し、被収容者をこれらの監房に懲罰として転房させることは前記(2)(イ)のとおり違法であるが、仮に、「スペシャルルーム」を設置することが許されるとしても、原告には、そのまま居房に収容していても拘禁目的を達成し得なくなるという事情が全くなかったから、目的及び手段の点からみて、原告を「スペシャルルームⅡないしⅤ」に収容することは違法である。

(二) 被告の反論

(1) 違法行為Ⅰについて

担当刑務官は、原告が、平成五年一〇月二六日午後六時四〇分頃、隣房の被収容者と居房廊下側の窓越しに通声(ほかの者に窓越しに話しかけ、合図をするなど不定な連絡をすること)をしているところを現認したため、原告に問いただしたところ、原告は、右通声の事実を認めた。担当刑務官の通報を受けて現場に急行した刑務官は四名であり、右刑務官らは、原告に対して罵声を浴びせたことはない。

(2) 違法行為Ⅱについて

(ア) 原告は、担当刑務官に対し、通声の事実を認めており、秩序違反行為をした疑いがあった。右刑務官は、原告及び隣房被収容者に対し、それぞれの居房において、右通声の疑いについて詳細に取り調べるため取調べ独居拘禁に付する旨を告知した上で、一〇月二七日午前、同種事犯の再発防止及び取調べのため、原告を、テレビカメラ付の第二種独居房に転房させたもので、右転房は違法ではない。

(イ) 東京拘置所には、原告が主張する「スペシャルルーム」なるものはそもそも存在しない。

(3) 違法行為Ⅲについて

担当刑務官は、平成六年三月一七日午前九時三七分頃、所内を警備中、原告が房外に衣類及び本を投げ出していることに気が付き居房に急行したところ、原告が大声を発していたため、同人に対し静かにするよう命じたが、原告はこれに従わなかった。担当刑務官は、他の刑務官の応援を要請し、さらに説得を続けたが、原告が小机を持ち上げて駆けつけた副看守長に対し振り下ろそうとする等の暴行気勢を示し続けたことから、副看守長は保護房収容もやむを得ないと判断し、同人を保護房に収容した。その際、刑務官らは必要な有形力を行使しただけであり、原告に対し暴行を加えたことはないし、罵声を浴びせたこともない。

(4) 違法行為Ⅳについて

前記(3)のとおり、原告は、刑務官の制止に従わず大声を発し、刑務官に対して小机を振り下ろそうとする暴行の気勢を示したことから、副看守長は、原告は、矯正局長通達「保護房の使用について」の「職員又は他の収容者に暴行又は傷害を加えるおそれがある者」に該当するとして、原告の鎮静及び所内の集団生活上の秩序維持のために、原告を保護房に収容した。そして、収容開始の翌日に原告の心情が安定し、暴行の気勢のおそれも薄らいだと認められたことから、すみやかに右収容を解除した。

したがって、拘置所長が原告を保護房に収容した右措置は、拘置所の規律秩序の維持、施設の安全確保のために必要最小限の範囲で行われたものであることが明らかである。

原告は、保護房収容後、次第に落ち着きを取り戻したため、拘置所長は、三月一八日午後二時三〇分、保護房収容を解除するとともに、右暴行気勢の件について取り調べるため独居拘禁に付す旨原告に告知し、第二種独居房に移し、綿密な動静観察を続けた。副看守長は、同月二二日、四月一八日、それぞれ処遇上の理由から原告を転房させた。

以上のとおり、原告の保護房収容及びその後の転房については、何ら違法性はない。

2  争点2(被告の故意)

(一) 原告の主張

前記被告の違法行為は、すべて故意により行われたものである。

(二) 被告の反論

刑務官らは何ら違法行為をしておらず、故意過失もない。

3  争点3(原告の損害の有無及び内容)

(一) 原告の主張

原告は、刑務官による違法行為ⅠないしⅣにより、次の(1)ないし(5)の損害を被った。

(1) 後遺症による逸失利益

二四四七万五五〇八円

原告は、刑務官らの平成六年三月一七日の暴行により、右耳の聴力をほぼ喪失するという傷害、背骨の下の関節がずれるという傷害を被ったが、前者は、労働者災害補償保険法上の障害別等級表第一〇級第五号に、後者は、同第一一級第一〇号に該当する。

したがって、労働能力喪失時の六七歳まで右症状が継続するとし、新ホフマン係数、平成四年度の賃金センサスに基づく男子労働者の平均賃金、後遺障害第一〇級の労働能力喪失率によって計算すると、被告の逸失利益は、418万8500円×21.6426×0.27=2447万5508円となる。

(2) 後遺症慰謝料 五一〇万円

原告の後遺症は、障害別等級表第一〇級に該当するので、後遺症慰謝料は、五一〇万円が相当である。

(3) 傷害慰謝料 三〇〇万円

原告は、勾留されていなければ症状が固定するまでは通院していたはずであるから、暴行を受けた平成六年三月一七日から症状が固定した同年九月二一日までの約六箇月間は通院していたとみなすべきである。しかも、原告は、極めて不当な暴行を一方的に受けた上、医師の適切な診療を受けられず、右耳に後遺症が残存したことを勘案すれば、傷害慰謝料は増額されるべきである。

したがって、傷害慰謝料は三〇〇万円が相当である。

(4) 「スペシャルルーム」収容等による慰謝料 三〇〇万円

被告人である原告は、刑事訴訟法六〇条に規定されているとおり、適正な裁判を受けさせるために勾留されているにすぎないにもかかわらず、刑務官らにより罵声を浴びせられ、原告の名誉感情は侵害された。また、「スペシャルルーム」という人間性を否定するような監房に収容することは、被収容者の人間性を否定する行為であり、基本的人権の尊重を基本原理とする現行憲法下では絶対に許されないことである。

(5) 弁護士費用

原告は、訴訟代理人に対し、二〇〇万円の報酬を支払うことを約した。これは、原告の被った損害と相当因果関係にある損害である。

(二) 被告の反論

原告が在監中入院、通院をしていないことは認めるが、それ以外はすべて争う。

第三  当裁判所の判断

一  判断の順序と方法

本件は、原告の主張する違法行為の事実が認められるか否かが最大の争点であり、この点について攻撃防御が尽くされたものであるところ、本件証拠関係からいかなる事実が認められるかを二で明らかにし、三でその補足説明を行うこととする。

なお、原告は、日常会話にはさほど不自由がないとしても、諸事不案内な外国人である上、当時未決勾留者として拘置所に収容されていた者であるから、自己の主張を裏付ける証拠の収集能力にも一定の限界があり、右事実の存在を立証するためには専ら自らの供述に頼らざるを得ない面があるのに対し、一般論として、刑務官らが通謀する可能性もないとはいえないから、刑務官らの証言が一致するからといってそれらを採用してよいかどうかは慎重に判断しなければならないところである。したがって、事実認定においては、この点を念頭に置きつつ、二において、認定した事実を、三において、原告の供述の内容と刑務官らの証言のそれぞれについて、客観的な裏付けの有無、変遷の有無、内容の合理性等について検討した結果を説示することとする。

二  認定事実

甲一、乙二ないし一二、一四ないし一九、証人水田克明、同古市鉄義、同村川公一、同成高平治の各証言、原告本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全証拠によれば、次の各事実が認められる。

1  原告の東京拘置所収容の経緯

(一) 原告は、平成五年六月二二日、警視庁蔵前警察署から東京拘置所に移監され、新三舎四階三四房(第一種独居房)に収容された。

(二) 原告は、右同日、「所内生活の心得」と記載された冊子を貸与され、その内容についても指導を受けた。右冊子には、規律違反として懲罰を受けることがある場合として、「(六) 他の人に窓越しに話しかけ、合図をし、もしくは文書を交付するなど、不正な連絡をしたとき」「(一〇) 他の人に対して暴言を吐き又は暴行し、もしくは暴行の気勢を示したとき」と記載されている。

2  平成五年一〇月二六日及びそれ以降の出来事

(一) 古市鉄義看守(以下「古市看守」という。)は、平成五年一〇月二六日午後六時四〇分頃、原告と隣房の被収容者である中国人(以下「隣房被収容者」という。)が、互いに廊下側の窓を開け、食器孔に肘をつき、鉄格子に顔を近づけて話しているところを現認した。同認が、原告に対し「何の話をしていたのか。」と問いただしたところ、原告は、「裁判のことと早く出たいなどと話した。」と述べて、右会話の事実を認めた。古市看守は、当日の副監督当直者として第二区事務室で執務中の加藤正史副看守長(以下「加藤副看守長」という。)に対し、電話で右事実を報告した。

加藤副看守長は、応援刑務官として夜勤監督刑務官二名を同行して現場に急行し、原告及び隣房被収容者に対し、それぞれの居房で、右通声事犯の疑いについて詳細に取り調べるため取調べ独居拘禁に付する旨を告知した上で、その日のうちに、隣房被収容者のみを新三舎一階三五房へ転房させたが、この際、刑務官が原告に罵声を浴びせたことはなかった。

拘置所長は、翌二七日午前、同種事犯の再発防止及び取調べのため、原告を第二種独居房である新三舎一階九房に転房させた。

(二) 第二種独居房(新三舎一階九房)の性格及び内部の様子

第二種独居房は、被収容者を保護房に収容するまでの必要性までは認められないが、被収容者が秩序違反行為を行った場合等、その動静を観察する必要がある場合に収容するため設置されたものである。そこには、天井にテレビカメラが設置され、窓があり、洗面所と便器の置かれた板の間と畳の部分がある。房内には、掃除用に、ほうき、ちりとり、はたき、雑巾及びバケツが備え付けられており、不定期ではあるが、転房の都度、受刑者によって清掃されている。

(三) 通声事犯に対する懲罰

拘置所長は、平成五年一一月五日及び八日、原告に対し、右通声事犯に関する取調べを実施した。この取調べの際、原告は、「隣房被収容者の方から『エジプトの兄弟、今日の裁判はどうだったんですか。』と北京語で最初に話しかけてきたため、『今日、裁判は無しになりました。詐欺師が来なかったからまだ時間がかかる。早く出たい。』と北京語で返事をした。」旨述べたのに対し、隣房被収容者及び通声の内容を聞いていた別の被収容者である参考人は、「最初に話しかけたのは原告である。」旨述べた。そして、原告は、同月一〇日に開催された懲罰審査会の席上において、当初は否認していたが、最終的には通声の事実を認めた。

拘置所長は、原告の右行為が懲罰を科すべき場合の一つである「他の人に窓越しに話しかけ、合図をし、もしくは文書を交付するなど、不正な連絡をしたとき」に該当するとして、原告に対し、文書図面閲読禁止一五日の懲罰を科すことを決定し、同月一一日から二五日までの間、右懲罰を執行した。

(四) 皮膚疥癬による転房

原告は平成五年一一月八日、陰部等にかゆみがある旨訴え、拘置所医師が診察し、原因は不明であるものの「疥癬の疑い」と診断した。拘置所は、右同日、原告を病舎に入病させて薬湯入浴及び軟膏塗布等の治療を行った。

原告は、平成六年一月六日、右疾病が完治したことから退病した。

3  平成六年三月一七日及びそれ以降の出来事

(一)(1) 加藤芳雄看守部長(以下「加藤部長」という。)は、平成六年三月一七日午前九時三〇分頃、原告が、居房内において、訴訟書類を許可なく分冊しているのを現認し、分冊の必要があれば所定の手続をとって行うよう指導した。勤務を引き継いだ古市看守も、原告に対し、同様の説明を数回繰り返したところ、原告が、「もう分かった。裁判で言う。」などと興奮した口調で言い、訴訟記録を房内の隅に片付け始めたため、巡回視察に出た。

(2) 古市看守は、午前九時三七分頃、原告の居房前付近の廊下に衣類及び本が散乱しているのを発見し、同房前に急行したところ、原告が同居房内で、上半身裸になり、居房備付けのはたきの柄で食器孔の皿受け部分をたたきながら、「殺してやる。」「大和民族皆殺しにしてやる。」等と大声を発しているのを認めた。古市看守は、原告に対し、静かにするよう数回命じたが、原告がこれに従わなかったため、水田克明副看守長(以下「水田副看守長」という。)に報告するとともに、ほかの刑務官の応援を要請した。

(3) 水田副看守長は、加藤副看守長、中濱守看守(以下「中濱看守」という。)、加藤部長の合計四名で現場に駆けつけ、興奮して大声を発し続けている原告に対し、静かにするよう命じたが、原告は、これに従わなかった。水田副看守長は、古市看守に同房の扉を開けさせ、扉の前に立ち、原告に向かって「静かにしろ。」と言ったところ、原告は、右手に持っていたはたきを放り投げた上、居房備付けの小机を頭上高く持ち上げ、「殺してやる。」等とどなりながら、右小机を水田副看守長に向かって振り下ろそうとした。

(4) 水田副看守長は、原告を保護房へ収容することもやむを得ないと判断し、応援刑務官を要請するため、遅れて駆けつけた阿部朋浩看守(以下「阿部看守」という。)に対し、非常通報するよう指示すると共に、居房内に入り、原告から小机を取り上げて制圧し、原告を保護房に連行するよう指示した。阿部看守は、非常ベルを押し、非常通報の措置をとり、古市看守、加藤部長、中濱看守は居房内に入り、古市看守、中濱看守が原告の両腕を制して小机を取り上げ、加藤部長が原告の腰に組み付いて同人を畳の上にうつ伏せに押し倒したが、原告はなお右刑務官らを振りほどこうと激しくもがき暴れながら大声を発し続けた。

右刑務官三名は、原告の両手足を抱え上げ、原告を居房から廊下に運び出したが、原告が激しく暴れるので、廊下でいったん下ろして原告を仰向けにし、両手両足を抱え、原告の足を進行方向へ向けて保護房への連行を開始した。原告は、腕や足をばたつかせながら「大和民族皆殺しにしてやる。」等とわめきちらした。右刑務官三名は、再度体制を整えるため、原告を廊下に降ろし、通報を聞いて駆けつけた刑務官と古市看守とが交代した上、原告を抱え上げたままエレベーターに乗せ、保護房である七舎一一房に連行した。

(二) 保護房(七舎一一房)の性格及び内部の様子

保護房は、天井にテレビ監視カメラが設置され、被収容者が大声を出しても周囲の被収容者の生活に支障を来さないよう窓は開閉できない構造とされており、換気扇により自動設定された時間間隔で断続的に空気の入替えが行われている。また、被収容者が暴れ、自殺を図るなど、その生命、身体に危険が生じないよう家具類は一切設置されておらず、洗面台及び便器だけが設置されている。なお、換気扇も含め、それらはすべて、壁及び天井に埋め込むように設置されており、突起物は存在しない。

保護房は、受刑者により、週二、三回清掃されている。

(三) 保護房入房直後の身体検査及び医師の診察の結果

水田副看守長は、平成六年三月一七日、原告を保護房に入房させた直後、近藤隆幸副看守長(以下「近藤副看守長」という。)とともに、原告の身体検査及び着衣の検査を行った。その結果、原告の上腕部、胸部、腰部が赤くなっており、左上腕部内側に擦過傷、左肋骨部に打ち身が見られた。着衣の検査の結果、着用していたパンツ及びスウェットのズボン(以下「スウェット」という。)は、スウェットが臀部及び股の部分が擦り切れていたものの、特に異常はなく、水田副看守は、メリヤス製の官衣(以下「メリヤス」という。)を支給し、私服は保管箱に入れて保管した。その後、医師も原告を診察したが、右擦過傷及び打ち身のほかには異常は認められなかった。

(四) 三月一八日の第二種独居房(新三舎一階一〇房)への転房、その内部の様子

拘置所長は、三月一八日午後二時三〇分、原告の保護房収容を解除するとともに、暴行気勢の件について取り調べるため、独居拘禁に付す旨原告に告知し、第二種独居房である新三舎一階一〇房に移し、動静観察を続けた。

新三舎一階一〇房の基本的な構造は、同じ第二種独居房である新三舎一階九房と同様である。

(五) 三月一九日の村川医師の診察

外科医である村川公一(以下「村川医師」という。)は、三月一九日、原告を診察したが、その際、原告は、「二日前に肛門から少量の出血があり、前日の排便時にも肛門から出血があった。」旨訴えた。そこで、村川医師は、原告の肛門を指診したが、痔瘻、痔核はなく、大腸が、直腸がんの疑いもないと判断した。さらに、肛門を見ると、六時の方向に裂肛があり、ここからの出血が疑われたため、座薬を処方した。なお、肛門部周辺には、擦過傷、打撲のあと、皮下出血等は認められなかった。

村川医師は、原告の体を診察したところ、左側胸部付近には痛みがあり、打撲の疑いがあると判断した。原告の左側上腕の内側には皮下出血も認められたが、腫脹はなかった。原告の右肩は痛覚がなかったため内科医による診察を指示し、サロメチールを処方した。さらに、村川医師は、原告が右耳の難聴を訴えたため、耳鏡で診察したところ、鼓膜にはっきりした穿孔などは見つからず、耳鼻科医による診察を受けるよう指示した。なお、右耳の周囲に皮下出血や擦過傷等も認められなかった。

(六) 三月二二日の第二種独居房(新二舎一階四房)への転房、その内部の様子

水田副看守長は、原告が、三月一九日の夕食から拒食を始めた原因が古市看守に反感を抱いているためのようである旨の報告を受けたため、同月二二日、原告を第二種独拒房である新二舎一階四房へ転房させた。

新二舎一階四房の基本的な構造は、同じ第二種独居房である新三舎一階九房と同様である。

(七) 三月二五日の成高医師の診察

脳神経外科医である成高平治(以下「成高医師」」という。)は、三月二五日、原告を診察した。原告は、右耳の痛みと、その原因として「刑務官により殴られた。」旨訴えたため、成高医師は、原告の側頭部、後頭部、耳朶を診察したが、はっきりとした外傷は見られなかった。成高医師が、右耳の中を調べたところ、小さなガーゼが入っていたが、原告は、「ガーゼを取り除いた後もよく聞こえない。」旨訴えた。さらに、成高医師は、耳鏡で外耳道を見たが、鼓膜は正常で、その他にはっきりとした所見はなかった。なお、外耳道の下壁には、米粒大くらいの茶色っぽいものが付着しており、出血のあとであると断定することはできなかったが、原告が、刑務官による暴行を訴えていたため、何らかの関連性があるかもしれないと考えて診察録に「旧血あるか」と記載した。

成高医師は、右耳の痛みの原因について、外傷と炎症の双方の可能性を念頭においていたが、外傷を裏付けるような耳の周囲の皮下出血、鼓膜破損等の異常がなく、前年一二月一六日の診療録診察欄に、耳垂れがあり、右耳の聴力障害を訴えている旨の記載があったことから、炎症が再発した可能性があると判断し、消炎点耳薬と痛み止めを処方した。

(八) 四月一八日の第二種独居房(新二舎一階一四房)への転房、その内部の様子

拘置所は、同年四月一八日、拘禁の都合により、原告を第二種独居房である新二舎一階一四房へ転房させた。新二舎一階一四房の基本的な構造は、同じ第二種独居房である新三舎一階九房と同様である。

(九) 五月一九日の耳鼻科専門医の診察

耳鼻科専門医は、同年五月一九日、原告を診察した。原告は、右耳に打撲を受けた後、聴力がない旨訴えており、オージオグラムの検査を実施したところ、右耳の聴力は低下していることが判明した。

(一〇) 暴行気勢に対する懲罰

拘置所長は、(一)の事実が「他人の人に対して暴言を吐き又は暴行し、もしくは暴行の気勢を示したとき」に該当するとして、軽屏禁一〇日(文書図画閲読禁止併科)の懲罰を科することが相当であると決定し、同年三月三一日、原告にその旨を言い渡し執行した。拘置所長は、同年四月一日、原告が訴訟記録の閲覧を申し出たため、これを許可した。拘置所長は、原告の受罰態度が良好で、改悛の情が顕著に認められたことから、右懲罰を一日分免除することとし、同月八日、右懲罰の執行を終了した。

三  事実認定についての補足説明

1  原告の供述等について

右認定事実に反する甲一及び原告本人尋問における供述部分(以下併せて「原告の供述等」という。)は、次のとおり、客観的証拠と齟齬するところがあり、主張、供述に理由のない変遷がある上、重要な部分について内容が不合理な点もみられるから、結果として採用することができない。

2  平成五年一〇月二六日及びそれ以降の出来事

(一) 原告の供述等

原告は、要旨「平成五年一〇月二六日午後六時頃、原告は、収容されている居房の窓に向かって立ち上がったところ、だれとも話していないにもかかわらず、古市看守が『隣としゃべるんじゃない。』と言いながら、いきなりどなり込んできた。原告は、身に覚えがなかったため、『しゃべっていない。』と返答したが、古市看守は全く原告の言い分を聞き入れず、『ペナルティーだ。』と叫んで、一方的に原告を通声事犯と認定した。古市看守は、警備隊員と思われる他の刑務官約一〇名を応援として呼び寄せた。集まった右刑務官らは、原告に対し、『このヤロー』『ばかヤロー』『悪党ヤロー』等と罵声を浴びせたので、原告が、『自分の有罪無罪は、裁判官が決める。』と言ったところ、古市看守から、『ペナルティー』と言われ、『スペシャルルームⅠ』に連行された。その結果、原告は、疥癬に罹患し、二箇月の治療を要した。」と供述する。

(二) 原告の供述等の信用性について

平成五年一〇月二六日の出来事については、原告による通声の有無及び刑務官らの原告に対する罵声の有無が問題となるが、これらの点については、事柄の性質上、客観的に裏付けとなる証拠は存在しない。そこで、まず、原告の供述の信用性について検討する。

(1) 原告の記憶の正確さの度合い

(ア) 供述の変遷

原告は、当初、通声事犯は、平成五年一一月二九日に発生したこと、右通声事犯の取調べのために原告が転房させられたのは、通声事犯の当日であること、右通声事犯の懲罰審査会においては、懲罰の言渡しがされたのみであり、原告の言い分は全く聞かれなかったこと、通声事犯に対する懲罰が執行された結果、自己の刑事訴訟についての準備が全くできなかったことを主張し、それに沿う供述をしていた(訴状及び甲一)。

しかし、原告は、本人尋問において、通声事犯は、同年一〇月二六日であること、転房させられたのはその翌日の同月二七日であること、懲罰審査会においては、当初原告は通声を否定したところ、少し議論になり、最終的には認めた形式になってしまったこと、訴訟の準備は全くできなかったわけではないことを供述した。

右供述の変遷は、被告の認否反論の後に行われ、その内容も被告の主張及び客観的証拠と合致する方向でされたものであるが、原告は、右供述内容の変遷の理由について、合理的な説明をしていない。

(イ) 客観的事実との齟齬

原告は、転房先の房である新三舎一階九房(原告が主張する「スペシャルルームⅠ」に該当する)には窓がなかった旨主張するが、乙二によれば、同房には窓があることが認められる。

原告は在監中に頻繁に転房させられたこと等から記憶がはっきりしていないものと考えられるが、原告が主張するように、真実、通声もしていないのに第二種独居房に転房させられたのであれば、記憶が残っていてもよさそうにも思われる。

(ウ) したがって、原告は、平成五年一〇月二六日の出来事についての記憶があいまいであり、その供述の信用性に疑問を持たざるを得ない。

(2) 内容の不合理性

原告は、古市看守が通報した結果、警備隊員を含め、応援職員が一〇名程度も駆けつけた旨主張し、それに沿う供述をする。何人くらいの刑務官に原告が制圧されたかという点は原告の主張においては重要部分であるといえるが、担当刑務官が被収容者による通声事犯の発生を認めただけであれば、複数の刑務官の派遣を受ければその後の転房等の措置は可能であると考えられるから、古市看守が警備隊員の派遣まで要請したとするのは不自然である。したがって、原告の供述の内容には誤認又は誇張があるとみるのが相当である。

(3) 以上みたとおり、原告の供述は合理的な理由もなく変遷している上、客観的事実と齟齬する部分や、その内容に合理性を欠く部分がみられるから、単純な記憶の誤りとみることはできず、全体としてその信用性が低いものと評価せざるを得ない。

(三) 証人水田克明、同古市鉄義の各証言について

前記(二)に説示したところに対し、後記3(四)において検討する点を除いて、証人水田克明、同古市鉄義の各証言はいずれも一貫しており、その内容に特に不自然な点はない。

なお、原告は、通声事犯の際、拘置所では野球中継のラジオ放送が行われており、たとえ通声があったとしても、原告の居房から離れたところにいた古市看守に聞こえるはずがない旨主張し、その旨供述するが、当該時刻において、館内でラジオ放送が行われていたか、その音量がどの程度のものであったかについての裏付けとなる証拠はなく、原告の憶測の域を出ないものであるから、前記認定の妨げとはならない。

また、原告は、原告の刑事公判期日において予定されていた証人の不出頭が理由で公判が延期になった事実はなかったため、通声事犯の取調べの際、原告が「詐欺師が来なかったから今日の裁判は無しになった。」旨述べるはずがない旨主張し、その旨供述する。しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告は恐喝被告事件の被害者であるズルフィックを「詐欺師」と考えていたのであるから、そのような発言をする蓋然性はあるところ、右証人の不出頭の事実の不存在についてはそれを裏付ける客観的な証拠は提出されておらず、専ら原告本人の供述しかないことからすると、前記認定の妨げとはならない。

3  平成六年三月一七日及びそれ以降の出来事

(一) 原告の供述等

原告は、要旨「平成六年三月一七日午前九時三〇分頃、自己の刑事訴訟記録を検討していたところ、古市看守が、原告の訴訟記録をとじるのに使用していたひものことを『テメー、このヤロー、そのひもはダメだ。』と言いながらどなり込んできた上、『このこじきヤロー』等と罵声を浴びせてきた。そこで、原告は、『このひもはあなたに頼んで買ってきたもらったひもだ。』と説明し、同人と何度かやりとりしていたところ、古市看守は、『テメー、このヤロー、こじきヤロー』等と再度罵声を浴びせた上、激高した同人は、電話で応援を要請したため、直ちに一五名以上の警備隊員と思われる刑務官が駆けつけ、原告に対し、代わる代わる『このヤロー、日本人をなめるな。』等と口汚くののしりながら房内に侵入してきた。そのため、原告は、身の危険を感じ、房内の小机を胸の高さまで持ち上げ、近づくと自殺すると述べて、自己の身を防衛しようとしたところ、刑務官らはいきなり原告を突き倒した上、警備靴で原告の顔面を踏みつけたり、体を足げりにしたりした。その後、右刑務官らは、警備靴の底で下腹部や右足の下部を強くけりつけ、尻に棒状の物を押し込むという暴行を次々と加え、原告が、右暴行により動けなくなると、原告を房内から引きずり出した上、そのまま引きずりながらエレベーターに乗せた。右刑務官らは、医務室の前を通るときは原告を立たせて歩かせ、原告が抗議すると、『うるせー』等とどなりながら、『スペシャルルームⅡ』に連行し、そのまま、原告をけり込んだ。なお、右刑務官らは、原告を『スペシャルルームⅡ』に連行する過程で、原告の陰毛をわしづかみにして数回引き抜くという暴行を加えた。」と供述する。

(二) 原告の供述等を裏付ける証拠の有無について

(1) 原告は、村川医師、成高医師の各診察結果及び原告の当時の身体及び着衣の状況に関して行われた検証の結果(起訴前の証拠保全を含む。)により原告の主張が裏付けられる旨主張するところ、これらは、原告の供述等の信用性にも関わるので、それぞれについて検討する。

(2) 拘置所医師の診察結果

原告は、肛門部の裂傷は、刑務官らに棒状の物を尻に押し込まれたことによって生じたものであり、右耳の聴力喪失は、警備靴で顔を蹴りつけられたことに生じたものであると主張し、その旨供述する。

(ア) 肛門部の裂傷

確かに、前記認定のとおり、平成六年三月一九日に村川医師が原告を診察した時点で、原告の肛門部には、六時方向に裂傷が生じていたことが認められる。このことは、一般論としては、原告が主張する暴行を推認し得る間接事実と位置付けられるものではある。

ところで、衣服を着用した上から棒状の物を肛門部に押し込まれたとすると、肛門の位置は外部から正確につかめないため、棒状の物が肛門部に達する前に、その周囲に打撲や内出血などが当然生じるはずである。また、衣服を脱がされ全裸のまま棒状の物を押し込まれたとすると、刑務官らが肛門部を狙って棒状の物を押し込むことは可能であるが、奥まったところに位置する肛門部に棒状の物が達する途中で肛門部の周囲の皮膚に抵抗を生ずる結果、擦過傷や挫創が生じるものと考えられる。

しかし、前記認定のとおり、原告の肛門部周辺には、当時、擦過傷、打撲のあと、皮下出血等の症状は認められなかったものであるから、原告の肛門部の裂傷は、刑務官らによる暴行によって生じたとみることは不自然であるといわざるを得ない。したがって、肛門部の裂傷があるからといって、原告が主張する刑務官らによる暴行を推認することはできない。

かえって、村川医師の証言及び乙一九によれば、排便時の息みが原因で生じる裂肛(痔裂)は六時方向を好発部位としていること、村川医師も原告の肛門部からの出血は、裂肛によるものであると診断し、座薬を処方したことが認められるから、原告の肛門部の裂傷は、裂肛(痔裂)によるものとみるのが相当であると思われる。

(イ) 右耳の聴力喪失

甲三二、乙四及び五によれば、原告は右耳の聴力をほぼ喪失し、高度の難聴であることが認められる。このことは、一般論として、原告が主張する暴行を推認し得る間接事実とみられなくもない。

しかし、三月一七日、刑務官らが、警備靴を履いたまま原告の耳及びその周囲をけりつけるような暴行を加えたのであれば、その二日後である同月一九日に行われた村川医師の診察及び同月二五日に行われた成高医師の診察の際、原告の右耳の周囲に皮下出血や擦過傷等の外傷があると考えられるところ、前記認定のとおり、このような外傷は一切見つかっていないし、鼓膜の破損も認められなかった。さらに、乙四、五及び成高医師の証言によれば、成高医師は、四月一五日、原告が再度聴力障害を訴えたことから、暴行の可能性も念頭に置いた上で、頭部及び側頭骨についてCTスキャンを指示し、同月二二日、原告に対しCTスキャンが行われたが、耳の暴行を受けた際に異常を生じやすい頭部及び側頭骨も特に異常は見られなかったことが認められる。したがって、右耳の聴力喪失があるからといって、原告が主張する刑務官らによる暴行を推認することはできない。

かえって、乙四及び五によれば、原告は、平成五年一二月一〇日、右耳の耳垂れを訴え、医師の診察を受け、同月一六日、右耳の耳垂れと聴力の喪失を訴え、耳鼻科医の診察を受け、外耳道に発赤が認められていたのであるから、原告の右耳の疾患は、三月一七日以前から発生していたのではないかとみるのが相当であると思われる。

なお、甲三四は、東京医科大学病院精神神経科医師飯森眞喜雄が、平成一一年五月一三日及び一九日、原告に対して行った診察及び心理テストの結果から、精神医学的所見を述べたものであるが、原告の聴力の有無を直接診断したものではなく、原告が訴えている右耳難聴について器質的病変が認められないと仮定した場合、その原因としては、何らかのストレス又は精神的外傷体験が考えられ、ストレス又は精神的外傷体験としては、原告の訴えに従えば、平成六年三月一七日に刑務官らから暴行を受けたことであることが十分に考えられるというものであり、原告の訴えを所与の前提として医学的可能性を述べたものにすぎないから、右暴行を裏付けるものとはなり得ない。

(ウ) 腹部CTスキャン

乙五によれば、被告は、平成六年九月八日頃、原告の訴えに基づき、腹部CTスキャンを行っていることが認められる。しかしながら、右CTスキャンは、刑務官らによる暴行があった旨主張する三月一七日から約六箇月経過した後に行われたものである。右検査の理由が、腎損傷の疑いがあるためであり、腎損傷は強い外力が加わる場合に発生するといわれているとしても、三月一七日の暴行の有無との関連性は極めて低いものといわざるを得ない。

(3) 原告の身体の状況

起訴前の証拠保全で行われた検証の結果によれば、平成六年七月一一日の時点で原告の右下股裏側には、八ミリメートル、一二ミリメートルの大きさの皮膚の色が周囲より若干暗い色を呈している傷あとらしき部分、肛門には突起物、右足付け根部分には横向きに白い筋状の部分がみられ、顎と唇の内側にも白い筋状のあとがみられ、陰毛の生え具合は、身体右側部分が左側部分に比べて陰毛の量が少ないことが認められる。

右検証は、原告が暴行を受けたと主張する平成六年三月一七日から約四箇月経過した同年七月一一日に行われたものであるが、右時点でまだあとが残っているような受傷であれば、診療録には記載があってしかるべきである。しかしながら、乙四及び五によれば、診療録には、右上腕部内側に擦過傷と皮下血腫、左肋骨部に打撲ないし打ち身がある旨の記載があるだけで、それ以外の受傷については何ら記載されていない。そうすると、原告の身体にみられた右部分が傷あとであったとしても、それが、いつのものであるかについて疑問があるといわなければならない。なお、原告の肛門部に突起物があることについては、乙一九によれば、痔の場合であっても、突起物が生じることが認められるから、これが肛門部に棒状の物を押し込まれたことを推認するものといえないことはいうまでもない。

以上によれば、検証の結果によっても、刑務官らによる暴行があったことを推認することはできない。

(4) 原告の着衣の状況

原告は、刑務官らが房内に入って来た際、上半身には何も衣服を着用しておらず、下半身には、パンツの上に自己所有のスウェットを着用しており、保護房で官衣のメリヤスを着用した旨主張しており、この点については当事者間に争いがない。

起訴前の証拠保全で行われた検証の結果及び当裁判所の検証の結果によれば、パンツの前面裏側に長さ約七五ミリメートル、幅約八〇ミリメートルの範囲で血痕らしきものが付着し、底辺を約三五ミリメートル、右側の斜辺が約二〇ミリメートル、左側の斜辺が約三〇ミリメートルの三角形の大きさで穴が空いていること、メリヤスは、前面裏側に長さ一〇〇ミリメートル、幅約六〇ミリメートルの範囲で、後面裏側に長さ約八〇ミリメートル、幅約四五ミリメートルの長さで血痕らしきものが付着していること、スウェットは、肛門部付近が破れており、裏返しにした布がクロスしている縫い目付近に赤茶色様の染みがあることが認められる。

ところで、原告は保護房収容時に官衣を貸与され、私服は副看守長らによって保管されており、保護房から転房させられた後、転房先の居房で私服に着替えているのであるから、仮にそれらの付着物が血痕であり、保護房収容前及び収容されている間に付着したとすると、水田副看守長ら原告の着替えに立ち会った者が全く気が付かず、原告がその後の起訴前の証拠保全まで当該衣類を保管できていたというのは不自然である。

また、パンツについては、原告は、肛門部に棒状の物を押し込まれた際穴ができたとも供述するが、パンツに穴が空いているのは、肛門のある後面ではなく前面である上、押し込まれた棒として可能性のある警棒の先端は鋭利なものではないから、当該部分に三角形の整った穴が空くのは経験則に合致しない。

スウェットについては、起訴前の証拠保全時に同時に検証することが可能であったと思われるのにもかかわらず、右スウェットは、平成九年七月八日の第一六回口頭弁論期日に、原告本人尋問の反対尋問を経た後になってようやく検証されたものであるが、右検証期日までには、本訴提起後約二年八箇月も経過しており、その間の保管経緯は明らかでない。この点について、原告は、スウェットを提出できなかったのは、衣服がなくなってしまうからであり、血痕が付着しているから提出すべきであるという考えはなかった旨供述するが、提出できなかった理由としては不自然に思われる。

したがって、原告の着衣の状況によっても、刑務官らによる暴行があったことを推認することはできない。

(5) 原告の供述の変遷とその内容の不合理性

原告は、当初、刑務官らにより居房内で全裸にされた上、むき出しになった尻に警棒のような棒状の物を肛門部に押し込まれた旨述べていたが(甲一)、原告本人尋問では、居房内では、上半身は裸で、下半身はパンツの上でスウェットのズボンを履いていたところ、スウェットの上から棒状の物を三回押し込まれた旨供述している。このように供述するところが変遷した理由については、合理的な説明をすることができていない。

さらに、変遷後の原告の供述によれば、刑務官らは、原告を保護房へ連行する途中でスウェット及びパンツを脱がせたことになるが、連行に抵抗して暴れている原告の衣服を連行途中で脱がせるのは極めて困難であるし、そもそもそうすべき必要性はない。むしろ、原告の衣服を脱がせたのは、保護房に連行した後、身体検査及び着衣の検査をするためであったと考える方が合理的であるから、原告の供述は不自然なものというほかない。

原告がどのような状態で暴行を受けたかという点は、平成六年三月一七日における暴行の有無を認定するに当たっては重要な事実であるにもかかわらず、原告の供述は合理的な理由がなく変遷している上、その内容も不自然であることは、原告の供述の信用性を評価する上で考慮せざるを得ない。

(三) 小括

以上検討したとおり、原告の供述は、裏付けとなる客観的な証拠も存在しない上、重要な事実関係について不自然に変遷し、その内容の合理性もないから、結局のところその信用性は認められないというべきである。

(四) 証人水田克明、同古市鉄義の各証言の信用性について

証人水田克明、同古市鉄義の各証言は、以下の二点を除けば内容も一貫しており、その内容は自然であり、かつ、合理的である。内容に不一致が認められる二点についても、そのことが信用性評価にどの程度影響するものかはさておくとして、一応検討する。

(1) 原告の居房の開扉

原告は、水田副看守長らが居房の外側から制止を呼びかけてもなおも暴行気勢を示し続けているため、原告を制圧するために居房の扉を開けたのが水田副看守長であるか、古市看守であるかについて、両人の証言は食い違っている。しかし、水田副看守は古市看守の上司に当たる上、担当刑務官である古市看守は常に居房の鍵を所持していることからすると、前記一のとおり、古市看守が開扉したと認めるのが相当である。

(2) 非常ベルの指示

水田副看守長が、古市看守らにいつ非常ベルを鳴らすように指示したかについて、古市看守は、水田副看守長が居房の扉を開けてもなお、原告が暴行気勢を示し続け、水田副看守長に対し、持っていた小机を振り下ろそうとしたときである旨証言しているのに対して、水田副看守長は、原告をいったん制圧し、居房外の廊下に出した後、再び暴れ出したときである旨証言したが、その後、これを訂正する陳述書(乙九)を提出している。したがって、水田副看守長は、古市看守らに対し、原告が暴行気勢を示し続け、持っていた小机を振り下ろそうとした時点で非常ベルを鳴らすよう指示したと認めるのが相当である。

(3) 以上のとおりであって、本件においては、右証言の不一致それ自体が証人水田克明、同古市鉄義の各証言全体の信用性を失わせるものとはいえない。

4  保護房の衛生状態について

(一) 原告の供述

原告は「スペシャルルームⅡ」について、床がリノリウム製と思われる上、窓がなく、隅の床が低くなっているところに、以前の収容者の汚物が堆積し、貸与された毛布にも汚物が付着しており、原告は、右房に収容されている間、換気扇から強風を吹き付けられた旨主張し、それに沿う供述をする。

(二) 検討

本件全証拠によっても、「スペシャルルーム」なる監房の存在を認めることはできないが、水田副看守長の証言によると、外国人に対し、保護房のことを「ペナルティールーム」と説明していることが認められる。そこで、以下では、保護房について、原告の主張する点を検討することとする。

前記認定事実によれば、保護房は、換気扇により自動設定された時間間隔で断続的に吸排気が行われ、受刑者による清掃が行われていることが認められるところ、原告が主張するような態様で汚物が付着していることは考えにくいし、換気扇についても、わざわざ被収容者に対して浴びせるように設置する理由はない。したがって、原告の供述にはその合理性について疑いを持たざるを得ない。

5  第二種独居房の衛生状態について

(一) 原告の供述

原告は、「スペシャルルーム」についてそれぞれ次のとおり主張し、それに沿う供述をする。

(1) 「スペシャルルームⅠ」について、窓がなく、常時テレビカメラによって監視され、床の上に埃が厚く堆積している上、以前の収容者の汚物が畳の上にこびりつき、得体のしれない虫が多数うごめいているという極めて劣悪かつ不衛生な環境であった。そのため、原告は、疥癬に罹患した。

(2) 「スペシャルルームⅢ及びⅣ」について、「スペシャルルームⅠ」と基本的には同じ構造であり、同Ⅰよりはかなり改善されているが、極めて不潔な環境であった。

(3) 「スペシャルルームⅤ」について、窓があるものの、常時テレビカメラにより監視され、床面の畳は、一応清掃されているものの、虫が多くうごめいているという劣悪な環境であった。

(二) 検討

前記認定のとおり、本件全証拠によっても、「スペシャルルーム」なる監房の存在は認められないが、以下では、第二種独居房について、原告の主張する点を検討することにする。

原告は、「スペシャルルームⅠ」に転房させられた結果疥癬に罹患した旨主張しその旨供述するが、乙四及び五によれば、「スペシャルルームⅠ」、すなわち第二種独居房である新三舎一階九房に収容される以前の平成五年九月八日及び二〇日の時点で、原告は、湿疹や全身のかゆみを訴えていることが認められるから、原告が疥癬を発症した原因が、原告主張のとおりであると認定することはできない。

なお、起訴前の証拠保全で行われた検証の結果によれば、原告は平成六年一一月頃、新三舎一階九房又は一〇房で採取した虫を提出し、写真撮影されている。原告が虫を採取した房が新三舎一階九房又は一〇房であるとすると、原告が主張する「スペシャルルームⅠ又はⅢ」に該当することになるが、平成六年一一月ころには、原告は、「スペシャルルームⅠ又はⅢ」のいずれにも入房していなかったのであるから、右の原告の説明はそれ自体不合理である。また、虫を採取した時期が平成五年一一月ころであり、原告が勘違いをして説明したものであると善解するとしても、右検証が行われるまでには、採取したとされる時から約一年八箇月余りの期間が経過しており、その間に原告は複数回転房していたのであるから、虫をその期間中所持していたことになるが、それも不自然であるから、結局、検証の対象とされた虫は原告がいつ、どこで採取したものであるか明らかでないといわざるを得ない。

これに対して、乙二、六及び水田副看守長の証言によれば、第二種独居房である右各居房には、清掃用具が備え付けられており、被収容者自らが清掃することが可能である上、受刑者による清掃が行われていることが認められる。

したがって、原告の主張する事実を認めることはできない。

6  小括

以上検討したとおり、原告の主張事実はいずれも認めるに足りる証拠がない。

四  争点に対する判断

以上の認定判断を前提として各争点について検討する。

1  争点1について

(一) 違法行為Ⅰについて

前記認定のとおり、平成五年一〇月二六日午後六時頃、刑務官らが原告に対し罵声を浴びせたことはなく、かえって、刑務官らは、被収容者の秩序違反行為を現認した場合に、拘置所職員として相当な措置を講じたにすぎないと解されるから、刑務官らの行為に違法はない。

(二) 違法行為Ⅲについて

前記認定のとおり、平成六年三月一七日午前九時三〇分ころ、刑務官らが原告に対し暴行を加え又は罵声を浴びせた事実はいずれも認められない。したがって、このような行為の存在を前提とする原告の主張は理由がない。

なお、刑務官らは、原告を保護房に連行する際、有形力を行使しているところ、この点の違法性の有無について検討する。

拘置所は、被収容者の逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、多数の未決拘禁者を収容する施設であるから、右目的を達成し、被収容者の平穏な生活環境を保持するために、拘置所内における安全と秩序を維持することが必要不可欠である。このような見地から、監獄法一九条においても、被収容者に逃走、暴行、自殺のおそれがある場合には、予防的、制止的に、戒具を用いて被収容者の身体に直接物理的な拘束を加えることを許容しているものと解される。したがって、拘置所職員は、被収容者が収容目的に反して拘置所内の安全を害し、秩序に違反しようとする場合又は職員が安全と秩序維持のためになす適法な職務行為を妨害しようとする場合には、これを予防し、又は制圧するために必要かつ相当の範囲内で被収容者に対し有形力を行使することが許容されるものというべきである。

ところで、前記認定のとおり、原告は、大声を上げながら居房の食器孔をはたきの柄でたたいており、他の被収容者を刺激するなどして拘置所内の安全及び秩序を害するおそれがあったばかりでなく、刑務官に対し小机を振り下ろそうとして暴行気勢を示していたのであるから、被収容者待遇の規制に明示的に禁止されている行為を行ったものというほかない。そして、刑務官は、後記(三)(4)で説示するとおり、原告の右行動及び興奮状態にあることが保護房の適正な使用を図るべく定められている保護房使用通達記一項2号の要件に該当し、かつ、普通房に収容しておくことにより拘置所内の安全及び秩序を維持できないと判断して、原告を保護房に収容することとし、そのために原告の両腕及び両足を制圧して保護房に連行したものであるから、拘置所内の安全及び秩序維持のために必要かつ相当な範囲内の行為であったというべきである。

したがって、右刑務官らによる原告に対する有形力の行使に違法性は認められない。

(三) 違法行為Ⅱ及びⅣについて

(1) 保護房について

前記認定のとおり、保護房は、被収容者が大声を出しても周囲の被収容者の生活に支障が来さないよう窓を開閉できない構造とし、通気性を確保するため換気扇が設置されており、被収容者が暴れ、自殺を図るなど、その生命、身体に危険が生じない家具類は付設されず、洗面所及び便器が床に埋め込まれており、天井には監視カメラが設置されている。

ところで、保護房の構造が普通房と異なるのは、被収容者の心情が不安定となり、職員やその他の被収容者に対する暴行又は自殺、自傷行為等を行うおそれがある場合に、保護房に、当該被収容者をその危険性が消失するまでの間、他の被収容者から隔離して収容し、その経過を観察することで、拘置所内の秩序を維持するとともに、被収容者自身の生命及び身体の安全並びに拘置所内の安全を確保するという目的を保護房が有するからであると解される。また、監獄法一五条及び同規則四七条は、被収容者が戒護のために隔離の必要がある場合には独居拘禁に付すべきものと規定しているから、保護房の目的及び構造に鑑みると、保護房は、右法令に基づいて被収容者の鎮静及び保護のために設置されている独居房の一つであるといえる。したがって、その存在及びそこに収容することそれ自体は何ら違法なものということはできではない。

(2) 第二種独居房について

前記認定のとおり、第二種独居房は、被収容者を保護房に収容する必要性までは認められないが、被収容者が秩序違反行為等を行った場合等、その動静を監察する必要がある場合に収容するために設置されたものであるところ、その構造も右目的に合致するものであるから、保護房と同様に、監獄法一五条及び同規則四七条に基づいて被収容者の鎮静及び保護のために設置されている独居房の一つであるといえる。したがって、その存在及びそこに収容することそれ自体は何ら違法なものということはできない。

(3) 違法行為Ⅱについて

前記認定のとおり、原告は、隣房被収容者と通声したことが認められるから、右秩序違反行為の詳細な取調べを行うため独居拘禁に付することは合理的な理由があり、第二種独居房に収容する目的に合致するものである。したがって、本件において、原告を第二種独居房に収容したことは、何ら違法とはいえない。

(4) 違法行為Ⅳについて

保護房の使用について、保護房使用通達が定められていることは当事者間に争いがなく、乙一〇によれば、保護房を使用するのは、一定の各号に該当する事由があり、普通房に拘禁することが不適当と認められる場合に限られていることが認められる。

そして、前記認定のとおり、原告は、水田副看守長に対し、頭上高く持ち上げた小机を振り下ろそうとしたのであるから、右通達記一項2号の「職員に暴行又は傷害を加えるおそれがある者」という要件に該当する上、原告は大声を張り上げ、水田副看守長らの制止を全く聞き入れず、そのまま普通房に収容しておくことは不適当な状況であったものとみられるから、右通達に則って保護房に収容することは必要かつ相当な措置であったということができる。したがって、本件において、原告を保護房に収容することは、何ら違法ではない。また、その後の三度にわたる転房についても、前記認定のとおりの経緯によるものであり、何ら違法とはいえない。

五  結論

以上検討したとおり、原告の主張する事実は認められないから、その余について判断するまでもなく、原告の主張には理由がない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官片山憲一 裁判官日暮直子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例